東京地方裁判所 平成8年(行ウ)220号 判決
原告
株式会社都市計画
右代表者代表取締役
井谷助二郎
右訴訟代理人弁護士
福家辰夫
同
鈴木克巳
被告
東京都品川都税事務所長 青嶋廣
右指定代理人
江原勲
同
鈴木朗
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 争点1(本件各保有税の申告をした原告が、更正の請求の手続によることなく、右各申告に係る納税義務が当初から発生していないことを主張して、本件各督促処分の適法性を争うことが許されるかどうか)について
1(一) 前記第二の二1(二)記載のとおり、特別土地保有税は、申告納付、すなわち、納税者がその納付すべき地方税の課税標準額及び税額を申告し、その申告した税金を納付する方式(法一条一項八号)による地方税であるが、一般的に、申告納付による地方税については、納付すべき税額は納税者の申告によって確定することを原則とし、申告がない場合又は申告が不相当と認められる場合に限って、租税行政庁の更正又は決定によって税額が確定されるものである(なお、国税における申告納税方式について、国税通則法一六条参照)。
(二) 法は、二〇条の九の三第一項において、申告納付に係る地方税の申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が地方税に関する法令の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があった場合には、当該更正後の税額)が過大であるときなど同項各号の一に該当する場合には、当該申告書に係る地方税の法定納期限から一年以内に限り、自治省令の定めるところにより、地方団体の長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し更正があった場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨定め、さらに、同条二項において、右の更正の請求の期間を経過した場合であっても、同項各号所定のいわゆる後発的理由に基づく更正の請求を、その理由の発生した日の翌日から起算して二か月以内にすることができる旨定めている。
(三) 右のとおり、法が申告納付による地方税について、更正の請求の制度を設け、かつ、更正の請求ができる期間を限定しているのは、納税者の権利を保護するとともに、租税債務を早期に確定させて租税法律関係を安定させ、税務行政の円滑な運営を図ることを意図したものと解される。そして、法が更正の請求の制度を特に定めた趣旨にかんがみると、申告により納付すべき税額が過大であるときなど申告内容を自己に有利に変更しようとする場合には、当該申告を無効と解すべき特段の事情のある場合を除き、更正の請求の手続によってその救済を求めなければならないものと解するのが相当である。
(四) したがって、特別土地保有税の申告をした者が、更正の請求の手続によることなく、当該申告に係る納税義務が当初から発生していないことを主張して、その督促処分の適法性を争うことは、当該申告を無効と解すべき特段の事情のある場合を除き、許されないものというべきである。
2(一) 前記第二の三3記載のとおり、原告は本件各保有税の申告をしているから、右各申告について、これを無効と解すべき特段の事情のない限り、本件各保有税の税額(納税義務)は右各申告により(ただし、平成元年度保有税については、前記第二の三3(二)(3)記載のとおり、減額更正がされているので、右税の税額は九〇八五万八九〇〇円の限度で)確定したものと解すべきところ、原告は、前記第二の四1(原告の主張)(一)ないし(三)記載のとおり、右各申告により本件各保有税の納税義務は確定していない旨主張する。
(二) しかしながら、以下のとおり、原告の右主張はいずれも採用することができない。
(1) まず、原告は、非課税土地として使用しようとする土地に係る特別土地保有税の申告においては、税額が一応算出されているものの、その納税義務が免除されることを当然に予測して申告がされているので、この点で一般の納税申告と異なり、本件各保有税に係る申告においても、納付すべき税額は零とされているから、その申告によって具体的な納税義務の確定という効果が生じると解するのは相当でない旨主張する。
しかしながら、法六〇一条の定める納税義務の免除及び徴収猶予制度は、法の定める土地の取得ないし保有の事実があることによって納税義務が有効に成立していることを前提に、一定期間その徴収を猶予し、法の定める要件を満たす場合に最終的にその納税義務を免除するという制度であって、右の納税義務の免除及び徴収猶予を受けることを前提としてされた申告であっても、その申告により本来納付すべき税額が確定するという点においては、右申告を申告納付による地方税一般の申告の場合と別異に取り扱うべき合理的理由はないというべきである。
したがって、原告の前記主張は採用することができない。
(2) 次に原告は、本件各土地の取得は、錯誤により無効な法律行為によるものであり、原告が実際に本件各土地を取得することはなかったのであるから、右取得を前提とする本件各保有税に係る申告は当然に無効である旨主張する。
原告の右主張は、申告納付に係る地方税の申告書の記載内容に過誤があれば、当該申告は当然に無効になるとの考え方を前提とするものである。しかしながら、申告書の記載内容に過誤があって納付すべき税額が過大となっているなど納税者に不利な内容となっている場合には、本来、その過誤の是正は更正の請求の手続によって行うべきであり、例外的に、申告に係る錯誤が客観的に明白かつ重大であって、更正の請求の手続以外にその是正を許されないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に初めて、当該申告が無効になるものと解するのが相当である(最高裁昭和三八年(オ)第四九九号昭和三九年一〇月二二日第一小法廷判決・民集一八巻八号一七六二頁参照)。
なお、申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が、錯誤により無効となる場合において、当該錯誤のあることが法二〇条の九の三第一項の定める更正の請求の期間を経過した後に判明したときには、同項に基づく更正の請求を行うことはできないが、当該契約に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その契約が無効であることが確定した場合には、同条二項に基づいて、いわゆる後発的理由に基づく更正の請求ができるものと解されるから、前示のとおり、申告が錯誤により無効となる場合を限定しても、納税義務者の権利ないし利益を不当に害することにはならないというべきである。
したがって、本件各保有税の申告に係る錯誤の重大明白性を問題とせずに、右各申告の無効を主張する原告の前記主張は採用することができない。
(3) さらに、原告は、本件売買契約は、原告が宅建業免許を受けることを前提に締結されたものであるが、原告が右免許を受けることができなくなったから、本件各土地の取得に係る意思表示には客観的に明白で重大な錯誤があり、したがって、これを前提とする本件各保有税に係る申告は、客観的に明白で重大な錯誤によるものとして無効というべきである旨主張する。
原告とA社が、本件各土地上に本件建物を建設して、これを分譲することを内容とする本件共同事業契約を締結し、その契約の一環として、原告がA社から本件各土地を買い受ける旨の本件売買契約を締結したこと、原告は、東京都知事に対し宅建業免許の申請をしたが、これを取得することができなかったことは、前記第二の三2(一)、(二)、(四)記載のとおりである。そして、本件共同事業契約の内容に照らせば、原告が宅建業免許を取得することが本件売買契約締結の前提となっていたことは推認するに難くないところである。
ところで、原告がいう錯誤の内容は必ずしも明らかでないが、それが、本件売買契約当時、客観的にみて原告が宅建業免許を取得することが不可能であったにもかかわらず、原告が右免許を取得することができるものと誤信して、本件売買契約を締結したということを意味するのであれば、次に認定するとおり、その点に関し原告に錯誤があったものと認めることはできない。
すなわち、甲一九(原告代表者の陳述書)及び甲二〇(原告従業員中村真理子の陳述書)には、東京都知事が原告の宅建業免許の申請を許可しなかったのは、原告が右免許申請前に本件各土地を購入したことを理由とするものである旨記載されており、原告代表者は、当裁判所における尋問においてもその旨供述している。しかしながら、宅建業免許の要件について規定した宅建業法五条には、宅建業免許の申請者が申請前に将来の転売、分譲を予定して土地を取得したことが宅建業免許の不許可事由になるものとは明示的には規定されておらず、また、甲二九(原告代表者の陳述書)には、原告代表者が建設省建設経済局不動産課免許係長に照会したところ、建設省が、都道府県知事に対し、宅建業免許の申請の取扱いについて、申請者が申請前に土地を取得していた場合は、その免許申請を不許可として処理すべきであるとの趣旨の通達を出したことはなく、右趣旨の指導をしたこともない旨の回答を得た旨の記載がある。もとより、宅建業免許の申請をした者が申請前に将来の転売、分譲を予定して土地を取得したことが、宅建業法一二条一項で禁止された無免許事業に該当するものと判断され、右申請者が、宅建業免許の不許可事由として同法五条四号が定める「免許の申請前五年以内に宅地建物取引業に関し不正又は著しく不当な行為をした者」に該当するものとして、宅建業免許の申請が不許可となる場合はあり得るが、右の不許可事由の認定については、都道府県知事の裁量が働く余地があることなどを考慮すれば、原告が宅建業免許の申請前に本件各土地を取得していたからといって、直ちに、本件売買契約当時、客観的にみて原告が宅建業免許を取得することが不可能であったということはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
また、仮に、宅建業免許の申請をしても不許可となる場合があるのに、原告において当然に宅建業免許を取得できるものと誤信したという意味において、原告に錯誤があったものとしても、それは、動機の錯誤にすぎないというべきところ、本件共同事業契約及び本件売買契約の内容に照らし、そのような宅建業免許の取得の蓋然性に関する認識、判断が本件売買契約の要素をなすものとしてその内容になっていたものと認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
そうすると、原告がした本件売買契約締結の意思表示に宅建業免許の取得に関する要素の錯誤があったということはできず、他に本件売買契約の有効性を妨げる事実が存在することをうかがわせる証拠もないから、本件売買契約が有効であることを前提として行われた本件各保有税の申告に錯誤があるとは認めることができない。
したがって、本件各保有税の申告は客観的に明白かつ重大な錯誤によるものであるから無効であるとする原告の前記主張は、その前提事実を欠くものとして採用することができない。
3 以上のとおり、本件各保有税に係る申告により本件各保有税の納税義務は確定していないとする原告の主張は、いずれも採用することができず、他に右各申告を無効と解すべき特段の事情は認められないから、本件各保有税の納税義務(納付すべき税額)は、右各申告により確定しているものというべきであり、したがって、原告は、更正の請求の手続によることなく、本件各保有税の納税義務が当初から発生していないことを主張して、本件各督促処分の適法性を争うことは許されないというべきである。
二 争点2(本件の事実関係の下で本件各保有税の納税義務が発生したかどうか)について
右一で説示したとおり、原告は、更正の請求の手続によることなく、本件各保有税の納税義務が当初から発生していないことを主張して、本件各督促処分の適法性を争うことは許されないのであるから、争点2(本件の事実関係の下で本件各保有税の納税義務が発生したかどうか)に関する原告の主張は、いずれも主張自体失当というべきである。
三 争点3(本件の事実関係の下で、法六〇一条一項に基づき本件各保有税の納税義務の免除が認められるべきかどうか)について
1 原告が、本件各土地に係る特別土地保有税の納税義務の免除に係る期間を経過した平成八年一二月二四日、被告に対し、本件各土地の非課税土地としての使用を開始したことについて確認申請を行い、これに対し、被告が、東京都都税条例一五一条一項の規定(法六〇一条一項の規定に相当するもの)に該当しないものと認め、本件各保有税の納税義務を免除しない旨の本件各不許可決定をしたことは、前記第二の三3(七)記載のとおりである。
この点に関し、原告は、前記第二の四3(原告の主張)(三)記載のとおり、法六〇一条一項に基づく納税義務の免除を受けるためには、非課税土地として使用が開始されたことについての市町村長の確認を受けることは必ずしも必要でなく、市町村長が法六〇一条一項の非課税土地としての使用に当たると認定したことに加え、当該使用を開始すること、又は当該使用を開始したことにつき確認申請をし、市町村長がこれを了知することをもって足りるとの考え方に基づき、本件事実関係の下においては、法六〇一条一項に基づき、本件各保有税の納税義務が免除されるべきである旨主張する。
2 しかしながら、法六〇一条一項の規定内容は、前記第二の二2(一)記載のとおりであり、非課税土地として使用することについて市町村長の認定を受けた者が、特別土地保有税の納税義務の免除を受けるためには、納税義務の免除に係る期間内に当該土地を非課税土地として使用し、かつ、当該使用が開始されたことにつき市町村長の確認を受けることを要することは、その規定の文理に照らして明らかであって、右確認を受けることが納税義務免除の要件とはならないとの原告の前記主張は採用することができない。
なお、立法府は、租税立法の定立について、その政策的、技術的判断に基づき広範な裁量権を有しているものであり、法が、非課税土地として使用する予定の土地に係る特別土地保有税の納税義務の免除の要件として、当該使用が開始されたことにつき市町村長の確認を受けることを要するものとしていることは、立法府に与えられた裁量の範囲内のことであって、このような法の定めが憲法一四条、二九条等の憲法条項に違反するものということはできない。
3 本件においては、前示のとおり、原告の確認申請に対し、被告が本件各保有税の納税義務の免除しない旨の本件各不許可決定をしているところ、本件各不許可決定は、いわゆる公定力を有し、それが裁判所等の正当な権限を有する機関により取り消されるまでは有効なものとして取り扱われるべきものであるから、原告において、本件各不許可決定に不服がある場合には、右各決定に対する審査請求及び取消訴訟により、その救済を求めるべきものである。
そして、〔証拠略〕によれば、原告は本件各不許可決定を不服として、東京都知事に対して審査請求をしたが、本件の口頭弁論終結時点においてはいまだ、右審査請求に対する裁決はされておらず、右各決定の取消訴訟も提起されていないことが認められるのであるから、原告が本件各保有税の納税義務が免除されたことを前提として、本件各督促処分の適法性を争うことは、本件各不許可決定の公定力に反し許されないというべきである。
4 したがって、争点3(本件事実関係の下で、法六〇一条一項に基づき本件各保有税の納税義務の免除が認められるべきかどうか)に関する原告の主張は、主張自体失当のものというべきである。
四 そうすると、本件各保有税に係る徴収金の徴収猶予期間が満了し、かつ、右各徴収金の納付もなかったことから、本件各保有税について被告が原告に対し行った本件各督促処分は適法というべきである。
第四 結論
よって、原告の本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 篠田賢治)